【朗読劇】1000字小説『音楽室の桜ちゃん』



僕はこの春から、柴山小学校に配属になった。教師になって22年。やっと母校に返ってくることができた。


昔と変わらない懐かしい校舎。嬉しい配属だったが、世の中はずいぶん変わってしまった。僕はこの学校の子供達や教師の顔を、マスク越しでしかみたことがない。そして歌も歌えない。



柴山小には僕が子供だった頃、学校の七不思議があった。昔はよく友達と、その七不思議を探っていたものだ。この学校に長く勤めている先生に聞いてみたら、その話は今でも語り継がれているとのことだった。


その七不思議の中に、新しい不思議の話があった。それは音楽室の桜ちゃん。誰もいないはずの3階の音楽室からピアノの音が聞こえるとか。で、そのピアノを弾いているのは女教師の幽霊。



昔、音楽室の窓から身を乗り出していた児童を、先生が助けようとして、足を滑らせて落ちたそうだ。その落ちた所に桜の木が生えていて、先生が落ちた瞬間、桜の花びらが舞い上がったらしい。その事件がもとで、子供達はその先生の幽霊の事を音楽室の桜ちゃんと呼ぶようになったそうな。


やはり時が経つと、七不思議も変わるものだな。僕が子供だった頃の音楽室の話はこうだ。


壁に貼ってある音楽家の肖像画の目は光る



僕は久しぶりに音楽室のドアを開けた。防音の重たいドアは、昔のままだ。驚いたことに、色あせてしまったけど、肖像画もそのままだ。グランドピアノも。このピアノの後ろの窓を開けて見下ろすと、ここに桜の木があるんだったよな・・・



僕は窓を開け、桜の木を見下ろした。木が昔よりも大きくなってる。


あの日、小学5年生だった僕は、先生のピアノに合わせて、クラスのみんなと合唱していた。でも僕は歌なんて興味がなくて、それよりも、音楽室の肖像画の目が光るところを見たかった。


窓から差し込む光の加減で、肖像画の目が光りそうだった。僕は窓に足をかけた。すると、隣に立っていた女子が「危ないからやめて」と言った。


すると先生がピアノを弾くのをやめて振り向いた。僕は驚いて足を滑らせた。先生はとっさに僕の体に抱きつき、そのまま僕は先生と一緒に窓から落ちた。


先生がクッション代わりになってくれたおかげで、僕だけが奇跡的に助かった。




























だから僕は音楽の先生になりました。























先生ごめんね。僕、先生の分まで先生やります。




















フーミンの1000字小説、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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